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徳島家庭裁判所 昭和60年(家)496号 審判

申立人 オースチン・ドナルダ・パメラ

未成年者 松本正樹

主文

申立人が未成年者松本正樹を養子とすることを許可する。

理由

(本件申立の事情)

本件記録添付の申立人提出の関係書類、家庭裁判所調査官による調査報告書並びに申立人、未成年者及び松本貴子に対する当裁判所の各審問の結果によれば、次の事実が認められる。

申立人は、米国ミシガン州デトロイト市出身の米国人であり、同州に実母をはじめ家族が現存する者であるが、○○○○○大学卒業後「聖○○○○○○・○○○○の会」所属のカトリック宣教師となって、昭和30年に来日し、京都、高知での勤務を経て、同44年から徳島県所在の「○○○○○○○○○○○修道院」に勤務していたが、同46年その所属する教団が解散したため、その後○○女子大学教授に就任し、そのかたわら同53年からは英語塾を経営し、また同県内の身体障害者施設に対する奉仕活動を続けている未婚の女性である。なお、同人は本邦に永住しようとする者としての在留資格を取得しており、現在肩書地に住所を構え、本邦に永住する意向である。

他方未成年者は、徳島県において林業を営んでいる松本秀樹、貴子夫妻(現在未成年者の本籍地に在住)の四男で徳島市立の中学校1年に在学中の日本人であるが、申立人は、未成年者の親戚である吉田哲治とともに英語塾を経営している関係もあって、昭和57年ころから未成年者の一家(当時徳島市内に居住)と親しく交際してきたもので、その英語塾の生徒でもある未成年者を時々自宅に招くなどしているうちに、特に同人に対して深い愛情を抱くようになり、永住を希望する日本において親戚もないことから、同59年に至って同人の両親らに対し同人を養子にしたい意向をもらすようになったものである。申立人は、将来同人をアメリカに留学させ、日米の間に立って外国人とも十分交流できる国際人に育てたい、との教育方針を持っている。そして、申立人の人柄を信頼する未成年者及びその両親等も申立人の真意を理解してその申出を受諾するに至ったので、申立人は本件申立に及んだものである。(なお、本件申立後、当事者及び関係者が相談のうえ、未成年者が申立人の自宅において試験的に同居することになり、現在同居後約1か月を経過しているが、当事者及び関係者の意見によれば、将来養親子として生活するについて基本的な問題はないとのことである。)

(当裁判所の判断)

1  よって、法令適用について検討するに、

本件養子縁組に関しては、申立人及び未成年者が前記認定のような住所を有する我が国の裁判所が国際的裁判管轄権を有し、かつ、我が国の法律に則って審判をすることができると解するのが相当である。

すなわち、法例19条1項によれば、本件養子縁組については、前記認定のとおり、申立人は米国人であり、未成年者は日本人であるから、一応各当事者につきそれぞれその本国法を適用して審判すべきことになるところ、申立人の本国法上法例29条所定の反致が成立するか否かについて検討すると、同27条3項による申立人の本国法と認められる米国ミシガン州法にはこの点に関する直接の規定は見出せないけれども(なお、ミシガン養子縁組法典710-24条(1)は、「申立人が居住しまたは養子が存在する郡の検認裁判所へ養子縁組の申立をすることができる」旨規定する)、養子縁組の決定について、米国国際私法に関する判例は、概ね(a)その州が養子または養親のいずれかの住所地州であり、かつ(b)養親および養子もしくは子の法律上の監護権を有する者が、その州の対人管轄権に服するとき、その州は裁判管轄権を行使することができるものと解されているから、少なくとも養子および養親となろうとするものの同国法上の住所(ドミサイル)の存する州(国を含むものと解する。)に同国法上の裁判管轄権があることは明らかであり、しかもその決定は該管轄権を有する法廷地法に準拠してなされるべきものと解されている(アメリカ法律協会作成の抵触法第二リステイトメント78条とそのコメント参照)。この法理はミシガン州法の関係規定の趣旨とも基本的な矛盾はないから、同州においても妥当するものと解される。そうすると、未成年者はもとより申立人の上記住所(ドミサイル)もともに日本に存することが明らかであり、日本法を適用することが本国の公序に反するとも認められない本件においては、申立人の本国法上日本法への反致が成立すると解するのが相当である。従って、本件養子縁組許可申立事件については我が民法及び家事審判法等に則って審判すべきことになる。

2  そして、前記認定の事実によれば、申立人は、未成年者に対し養親として必要な愛情と監護能方を有しており、その経済力も同人の扶養に十分であると考えられ、本件養子縁組をするについて未成年者の親権者の承諾、未成年者の同意を得ているから、本件養子縁組は未成年者の福祉に適うものとしてこれを許可するのが相当である。よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 虎井寧夫)

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